時代を超えるアナログ・WaversaSystems WPHONO3T

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時代を超えるアナログ
WaversaSystems WPHONO3T
※翻訳転載

WaversaSystemsのデジタル

WaversaSystemsは、これまでに国内外でも考えられなかったデジタルアルゴリズムを作り出した。
WDACが初めに発売され、Waversaが磨いた技術は進化を続けた。

WAPというDSPエンジンは新鮮だった。
CDレベル、あるいはそれ以下の解像度を持った音源を独自のアルゴリズムでアナログ信号に近い水準に変換させた。
今までのアップサンプリング技術とは次元が異なる技術だった。
階段式に完成された2進法の量子化フォーマットの短所を最大限に無くし、音質的な部分においても大きな成果を得た。
これはPSオーディオやCHORDエレクトロニクス、またはいくつかの日本メーカーが達成する技術と肩を並べる技術的快挙だった。

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DACだけでなく、アンプ製品からもそうしたWAPの目標は明確だった。
LosslessでもLossyのデータでも、量子化される以前のアナログの原信号を追跡し、本来の形にできる限り近づこうとする試みが続いた。
まるで損失した情報を推定して探し出すように、WaversaSystemsのデジタル製品は一種のリマスターエンジニアの役割を果たした。
WDAC3とWAMP2.5は、WaversaSystemsの技術を最もストレートに、最も多くの大衆にアピールする起爆剤となった。

WaversaSystemsのアナログ

興味深いことは、WaversaSystemsの他のラインナップだ。
上述のDACとアンプとは別に、真空管アンプやフォノアンプなど、極めてアナログ時代の遺産を新たに再解釈し始めた。
WaversaSystemsが追求する目標は、最終的には、アナログだった。
WAPデジタルエンジンもまた、スタジオマスターの原本に少しでも更に近づこうとする試みであり、その正体は他ならぬアナログだった。
ウェスタン・エレクトリックの変奏と三極管アンプに対する現代的な再解釈が相次いだ。
フォノアンプはその中でも最も特別だった。RIAA標準以前のPECCに対するアプローチはとても執拗に細かくなった。
FM Acousticを除いては、ほぼ全滅したも同然のモノラル時代の数多くの名盤の様々なカーブ・イコライジングに対応しようとする試みだ。
インピーダンス、ゲインなどの調節を越え、ステレオモノラルに完全に対応する快挙を成し遂げた。

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このようにデジタルとアナログの要素を縦横無尽にこなすWaversaSystemsのラインナップは、徐々にその全容を示してきている。
デジタルはその布石であり、もう一方ではアナログソースに対する愛情がふんだんに含まれたラインナップが完成されていた。

最上位のMCHフォノアンプはその端を見せ、徐々にもっと大衆的なラインナップを紹介し始めた。

エントリークラスのフォノアンプ、WPHONO1を発売した。
価格から考えてみて、バーゲンセールに他ならない製品クオリティを持っている。
MM/MCの両方に対応することはもちろん、それぞれ別の入力端子を持っており、MMの容量、MM/MCの両方のロードインピーダンス調整が可能だ。
出力団もまた、RCAだけでなくXLRも対応し、機能的にも素晴らしかった。

 

WPHONO3T

WPHONO1をテストしてからどれ位が経っただろうか。
WaversaSystemsがもう一つのフォノアンプを製作して披露し、今回も私の元で聴かれた。
製品のポジショニングはリファレンス級フォノアンプ、W Phono AMPとも言える。
名前はW PHONO 3TのイニシャルTで気づくかもしれないが、Tube、すなわち真空管フォノアンプだ。
DACでW DAC3の真空管バージョンのW DAC3Tがあるので、フォノアンプでは同じクラスのW PHONO 3Tが追加される。

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外観は、フロント右側のボリューム搭載の他はW DAC3と同じである。
フロントには複数のドットで構成され、入力選択と設定などを知らせるディスプレーは八段階の明るさに調整できる。視認性は非常に優れる方だ。
この他に、右側にボリュームとゲイン調整が可能であり、その下には3つのボタンで入力選択、メニュー操作などの機能を設定できる。

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W PHONO 3Tは基本的にフルバランス設計で、左/右チャンネルにそれぞれ+と–に対応する信号を別々に分離設計されている。
海外のリファレンス級ハイエンドフォノアンプで見られる豪華な構成であり、更に’Common Mode Rejection’回路を設け、ノイズから信号純度を保護している。
左/右チャンネルは、各信号を真空管によって増幅する。
使用する真空管はペア三極管タイプの12AX7で合計4つが活躍している。
最終出力はLundahlトランスフォーマーを各チャネル一個ずつ使用している。基本的にトランスフォーマーの音色的な魅力、つまり穏やかで暖かく、特有のハーモニクスが音色についている。

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本製品の入力は2つあり、一つはMM、そしてもう一つはMCで、入力段で完全に分離されてある。
更に入力段をモジュールの形で装着した。今後アップグレードが行われる場合は、非常に容易に可能な形だ。まるでMSBやdarTZeelのようなハイエンドメーカーのそれと類似している。
特にMC入力段では、このような設計の魅力を充分に発揮することになる。レビュー用に用意された製品には、ルンダルLL1678を各チャネルに1個ずつの2個を使用する。1:8、1:16、1:32など三つの昇圧比に対応する。アモルファスコアを使用して10Hzから35kHzまで対応する。

もしアップグレードを望む場合、LL1931とLL1941AGなどをオプションで選択することができる。
LL1931はアモルファスとカダスコイルに対応し、LL1941AGはAG、つまりアモルファスとはコイルを使用する。ともに高域再生帯域が100kHzに達する。当然ながら、銀線をコイルに使用したLL1941AGは、アナログならではの繊細で爽やかな音色が得られると予想される。加えて、SPUなど10Ω以下の極端な低出力MCカートリッジを使用する場合にもLL1941AGが最適だ。

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まず、ゲイン合計3つに対応するために、昇圧費をL(1:8)、M(1:16)、H(1:32)など、低、中、高の中から選択して設定できる。加えて、MCカートリッジごとに様々な数値を持つインピーダンスは、合計16種類の選択が可能である。これは各昇圧比によって、様々な設定が可能であるが、1:8昇圧比では75~600Ω、1:16昇圧比では40~150Ω、そして1:32昇圧比では10Ωから40Ωまで用意されている。ただし、一般的なヘッドアンプの設定で通用するロードインピーダンスではなく、カートリッジの内部インピーダンスを基準に、最も近いインピーダンスに合わせなければならない。DIPスイッチで調整可能なこの詳細設定は、音質に大きな影響を与えるため、少々大変でも正確にセットする必要がある。

W PHONO 3TでもWフォノアンプで実装されたカーブイコライジング機能が電撃的に搭載された。本機ではRIAA以外のカーブに対応し、RIAA標準以外のPECCで製作されたモノLP再生において、様々な可能性を開いた。カーブの二つの変数は、高域のロールオフと低域のターンオーバー値だ。
WaversaSystemsはW PHONO 3Tにそれぞれ5つの数値を指定し、合計25種類の選択機能を付与している。これも基本セットのリモコン操作が可能である。

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過去に保有していたモノLP、または最近、高音質で発売されるモノLPをモノラルカートリッジで再生する場合、この機能は素晴らしい魅力になる。モノカートリッジだけでモノLP鑑賞の最適化が終わるわけではない。
最終的にフォノアンプで、当時多くのレコード会社のカーブに合わせてこそ、初めて当時の録音の真の姿を楽しむことができる。加えて、普遍的なNFB、つまりネガティブフィードバック方式ではなく、TCR、つまりTransformer、Capacitor&Resistor方式で実装されたアクティブ・イコライザーはW PHONO 3Tの音質を一次元の上昇させている。

“高解像度に込められた音楽的コヒーレンス”

セットアップとテストは私のリスニング・ルームで行われた。
約2週間程度にわたって十分な時間をおいて、その間、アナログシステムの変動はなかった。
ターンテーブルはドイツのトランスローターZET-3MKIIを使用し、カートリッジはベンツマイクロGlider SLを使用した。 0.4mV出力に内部インピーダンスは15Ωの低電力MCカートリッジだ。
プリアンプはジェフ・ローランド・シナジー、パワーアンプはプリニウスを使用しており、スピーカーはディナウディオ コンフィデンスC4を活用した。この他、キャリーCAD-300SEI真空管プリメインアンプとKEF LS50などを使用した。
ちなみにレビューに使用したフォノアンプは、LL1678昇圧トランスを使用し、カーブはRIAA標準に該当する500C/-13dBまたは500R/-13dBでセットして試聴した。

Vincet Belanger、Ann Bisson-Le vent souffle encore
Conversations

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フォノアンプは真空管アンプを好む人がとても多い。その理由は真空管の倍音による温かな甘い高域からだ。しかし、真空管を使用した完成品のうち、きちんと作られたものは価格がかなり高い。マンリースチールヘッドなどのフォノアンプは数万ドルだ。WaversaSystemsのW PHONO 3Tは三極管を活用して真空管アンプの豊富な倍音を活かした。 しかし、真空管アンプで弱点となる恐れがある、ぼやけたり、つぶれることがなく、非常に高解像度の粒子を作っている。
Vincet BelangerとAnn Bissonの’Le vent souffle encore’で聴かせてくれるボーカル音像は明確で、芯が真っ直ぐだ。Ann Bissonと歌う少女の声も正確に分離されて聞こえる。加えて、ピアノは澄んできらきら輝き、チェロは穏やかに乾燥せずにしっとりと音が呼吸する。

Johanna Martzy-J.S. Bach The Unaccompanied Violin Sonatas
Volume Two

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フォノアンプは小数点以下の非常に小さなmV単位の信号を数十倍に増幅させる。しかし、その初段階がヘッドアンプか昇圧トランスかによってハーモニックス特性が変わる。私たちが楽器や人の声を区別していることはほとんどハーモニックス構造の違いだ。W PHONO 3Tは、スウェーデンのルンダル昇圧トランスが入力段と出力段にも搭載されており、音色的な部分をコントロールする。ヘッドアンプ方式に比べて、音の表面がソフトで、特有の色がにじみ出る。特に弦楽器の場合、このような音色的な特性がこの上ない魅力で迫ってくる。
例えば、ヨハンナマルチのバッハ「バイオリンソナタ&パルティータ」のような曲で、胸に迫るようなソロバイオリンの音が、一音一音、伝わってくる。とても小さい規模の穏かな荒波が集まって、はっきりした抒情と悲哀の海に流れていく。真空管と昇圧トランスの結合が織り成す希有な響きが広がっている。

Bob Dylan-Highway 61 Revisited
Highway 61 Revisited

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W PHONO 3Tは明るく爽快な高域に密度の高い中域を表現してくれる。特に高域はその他のWaversaSystems製品のように、高解像度にロールオフせずに、ずっと空へ伸び上がる。したがって、過去の録音でも地味で、小さく隠れていた音にまで全てのほつれを解き水面上に浮かび上がらせる。
例えば、ボブ・ディランの[Highway 61 Revisited]のアルバムをMFSLバージョンで聞いてみると、タンバリンの音がとても活き活きと聞こえる。むしろ音源よりも解像力が高く聞こえる。加えて、ボブ・ディランが奏でるハーモニカの音も更に鮮やかで、倍音が豊かに詳細に聞こえる。45RPMバージョンのメリットを今までよりも更に浮き彫りにし、その魅力を充分に証明してくれる。

Steely Dan-Black Cow
aja

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このフォノアンプは真空管と昇圧トランスを使用しているが、非常に速く洗練されたアーティキュレーションを持っている。加えて、解像力に優れ、LPの溝の状態や録音による違いを克明に現す。かすかに再生される音を音楽的だとも時々いうが、どれだけでたらめな話しなのか認識する。したがって、LPの状態による違いも夜と昼のように正直に表現する。LPのプレスが溝の状態の良さはもちろん、短所までも赤裸々に見せてくれる。
例えば、かなり昔に購入したスティーリーダンの[Aja]アルバムの中で、「Black cow」のような曲を聴いてみると、サクソホンはベルベットのように柔らかく、同時に美しく仕上がる。中域と低域を行き来するベースとドラムは密度の高い低域のお陰で、いっぱいになったパンチ力で応酬する。クラシックやポップ、ジャズなどジャンルを問わないオールラウンドフォノアンプだ。

Anne-Sophie Mutter-Tschaikowsky ViolinKonzert
Wiener Philharmoniker

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アンネゾフィー・ムターとカラヤンが指揮するウィーン・フィルハーモニー・オーケストラのチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲では、定位感が特に印象的だ。複数の楽器が出現する交響曲でも非常に速い速度で輝くようなバイオリンなどの弦楽器の表現が印象的だ。他のLPと同様、特に高域解像力と帯域幅は非常に高い。このような高域特性のお陰で、ステージングがかなり立体的だ。前後の距離に応じた遠近感の表現は言うまでもなく、左右の幅をかなり広げる。以前にレビューしたW PHONO1も価格に比べ優れたが、特に音色的な部分では比較できないほど弦楽表現が圧倒的である。参考までに、フロントボリュームの場合、あまり上げすぎると高域も増加するため、システムによって適切な位置を探すことも重要である。

総評

W PHONO 3TはMCHとはまた別のフォノアンプだ。基本的に機能そのものはほとんどMCHに迫る。
MM、MC入力段が完全に分離されており、もしターンテーブル2セットを使うならメリットが大きい。加えて、フルバランス構造のペア三極管と昇圧トランスを使用したMC段、トランス出力などでハーモニックス構造がとても詳細で、様々な楽器の特性を明確に反映する。興味深いのはRIAA規格に対応した500C/-13dBより、500R/-13dBでセッティングがより良いバランスとダイナミックコントラストを示すという事実。ステレオLPの場合はどのような場合でも、500Rでのセッティング時に最も優れた音で応えた。

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このほかに昇圧トランスを使用し、同時に非常に多様なインピーダンスやゲインの設定がが可能なので、カートリッジへの対応幅が広い。しかし、W PHONO 3Tの評価は今回だけでは足りないようだ。なぜならLL1931とLL1941AGなどの昇圧トランスオプションが存在するためだ。ビンテージ昇圧トランスのテストなどの心配は忘れてもいい。加えて、モノ用トーンアームとモノカートリッジを私のターンテーブルにセットした後、再びテストしてみると、デカ、RCAなどモノLPの異なるカッティングのカーブについてどう反応するのか分かるようだ。すでにMCHフォノで経験した事だが、この部分に対する期待も見逃せない魅力ポイントだ。W PHONO 3TはアナログシステムのフラッグシップMCHフォノアンプに続いて、時代を横断し、伝説を歌う統合コントロールタワーとして機能している。多様な機能に加え、音質的な部分まで考慮すると、この価格帯では国内外を問わずライバルは思いつかない

by Audio columnist, Conan
※翻訳転載