HiFi Clubのコラムを翻訳掲載

オーディオスペックの虚像・THD(全高調波歪率)
第2回/真空管とTRの歪み

コンサートホールで聴くクラシック音楽は、美しく深い感動を与える反面、オーディオで聴く音楽はなぜか鋭く声高に聞こえたりもします。バイオリンは細くて角が立っており、音は塊りがちで騒々しく、音楽的な感動が感じられません。コンサート会場の感動をそのまま感じることができるのが、オーディオの最終目標だが、オーディオの各種の歪が音質を劣化させてそうなるのです。

それではここで、2次倍音と3次倍音についてもう一度整理します。

2次倍音(2倍数高調波、偶数次倍音、和音)

人を快適にする柔らかく温かみのある音です。例としてバッハの無伴奏チェロを思い浮かべてください。クラシック音楽で非常に重要な倍音で、アコースティック楽器(ピアノ、アコースティックギター、バイオリン、チェロ、ヴィオラ、コントラバス)などで発生する倍音です。自然な音色(Natural)で暖かく豊かな音です。

2次倍音が発生する増幅素子は3極管シングルエンドアンプで多く発生します。厳密に言えば2次倍音だけを発生するのではなく、3次倍音も発生します。TRはハイエンドオーディオメーカーでよく使われるJFET素子などで発生し、真空管でマッチドペアするようにTRも部品のばらつきなく選別すべきだが2次倍音が発生します。若干の2次倍音の追加は音楽に大きな問題を引き起こしません。2次倍音は自然(Natural)な音に感じるからです。しかし過度な2次倍音は音のスピードが遅くなったように聞こえ、音をやや軟弱にします。

3次倍音(3倍高調波、奇数次倍音、不協和音)

人に緊張感を与える鋭く粗い音です。アコースティック楽器ではトランペットなどの管楽器で3次倍音が2次倍音とともに発生し、演奏する方式によって3次倍音を強調する演奏もあります。ドラムなどの打楽器は複合的な倍音構造を持っています。電子楽器なども2次倍音を人為的に入れるが、2次倍音がそれほど重要な要素ではないと言えます。むしろポップ音楽やヘビーメタルなどでは3次倍音がむしろ強く、スマッシュ(Smash)な音を作り出します。

3次倍音は5極管真空管、プッシュプル回路などで発生し、ほとんどのTR増幅素子で発生します。基本的に不協和音なので追加されるべきではない倍音です。したがってNFBを過度にかけて楽器の倍音まで無くなってしまう事になります。よくコントロールして原音を損なわずに増幅する場合、音のスピードが速く、しっかりした中立的な(Neutral)音を作り出すことができます。

真空管とTR

T.H.Dを話すときに真空管とTRをよく比較します。よく「真空管は2次倍音が発生して柔らかくて暖かな音が出て、TRでは3次倍音が発生して音が硬くて冷たく聴こえる」という話をします。厳密に言えば間違った話しです。一般的に真空管は、2次倍音が多く出て、TRは3次倍音が多く出るが、真空管によっては3次倍音が出る真空管もあり、2次倍音が出るTRもあるからです。

しかし、しばしばT.H.Dの数値だけで、「真空管アンプ=歪み」と現す場合があります。ここでいくつか質問を提示してみます。

  • ブラウン管TVはすでに歴史の中に消えて久しいが、ブラウン管よりも歴史が古い真空管アンプがまだ健在しており、ハイエンドオーディオでは過半数が真空管アンプと言っても過言ではないほど、多くのオーディオメーカーが真空管でアンプを作っているのはなぜでしょうか。
  • 真空管アンプが歪みの塊だとしたら、110年の以上もの間、なぜオーディオ愛好家に選ばれ使い続けられているのでしょうか。オーディオファイル(オーディオ愛好家)の耳が悪いので真空管アンプを使っているのでしょうか。
  • もう一つ、何故まだほとんどのエレクトリックギター(そしてベースも)アンプは真空管アンプを使うのでしょうか。

その理由は、一般的に真空管アンプは、アコースティック楽器のような「2次倍音」の高調波が発生するからです。その2次倍音を追加して、別途の共鳴胴がないエレクトリックギターでアコースティックギターのような「倍音」を自然に作って共鳴胴の役割をしてくれるからです。

T.H.D:真空管3% VS TR0.05%の歪み

もしT.H.D 3%の2次倍音(高調波))を出す真空管アンプと、0.05%の3次倍音(高調波)を出すTRアンプがあれば、どのアンプが歪みが多いでしょうか。T.H.D数値だけを見れば0.05%のTRアンプがより良いアンプです。しかし原音の情報(音楽の倍音)を損失なく再生するという点で見ると、0.05%のTRアンプがより歪みがあると言えます。

T.H.D 3%の2次高調波が発生するアンプは、音楽で見ると1オクターブ高い”ド”の和音を追加するものであり、2次高調波があまり問題にならないので、NFBを弱くかけて元の信号にある微細な倍音情報をあまり損傷させずに増幅させることができます。だから逆に歪みの少ない音を出すことができます。

しかし3次高調波が発生するTRアンプは、もとの音楽にはない不協和音(3次高調波)を追加します。従って、このような3次高調波をなくすために、過度なNFBをかけて元の音にある楽器の倍音情報まで消してしまいます。その場合、倍音情報が不足して深刻な音色歪みまで発生することになります。こうしたアンプでクラシック音楽を聞くと、硬く鋭く聞こえ、音楽がつまらなく最後まで聞く気になれないということになります。クラシック音楽をよく聞かないようになる理由です。

分かりやすいように図で表現してみました。原音に対して3%の2次高調波(ハーモニー、青色)が追加されるので、NFBなどを弱くかけて原音をあまり損傷させないようにできるが、3次高調波(不協和音)が追加されるアンプは3次高調波(赤色)をなくすために、過度なNFBを深くかけるようになるので、原音の倍音までもなくなり、図のように原音の微細な信号が消えて音色の歪みまで発生することになります。

したがって、T.H.D数値だけを見て「真空管アンプ=歪曲」というのは間違った偏見です。

最良のアンプは、一切の歪みなく、原音をそのまま増幅するアンプです。

上記の比較は、単にT.H.Dスペックの問題点を伝えるために真空管とTRを比較したもので、2次倍音が出る真空管アンプが無条件にいいと主張するのではありません。原音の損傷なく良い音を出すアンプで、真空管とTRの出力素子の区分は無意味です。よく作られたTRアンプは原音の損失なく、むしろ中立的なきれいな音を出す長所があり、真空管アンプでも0.5%以下の低いT.H.D値を持つアンプもあるからです。 真空管とTRについての話題は、機会があればまた採り上げるかもしれません。

最も良いアンプは、独自の高調波が発生しないオーディオシステムが一番いいのです。そのような意味で見ると、T.H.Dが低いアンプやオーディオシステムが良いものであり、T.H.D 0%のアンプがあるなら、究極のアンプです。しかし、現代の技術や物理学的では不可能な話です。楽器の「倍音」を損なわず、ありのままに再生する能力が重要であるが、T.H.Dを下げて発生する原音の歪みが考慮されていないためにT.H.D値がむしろアンプの性能を歪曲させているということです。

T.H.D 0.1%と0.05%

ここで比較実験をしてみます。客観的な比較のために2台のTRアンプを使いました。

  • A:THD 0.1%、400ワット/チャネル
  • B:THD 0.05%、110ワット/チャネル

スピーカーはAvantgarde Trioです。 アクティブサブウーファーを持っており、109 dBという高い音圧を持っているので、スペック上で見れば、AやBでスピーカーを駆動することはまったく問題になりません。簡単にスマートフォンで測定したデータなので、高性能マイクを使ってちゃんと測定すれば、おそらく更に大きな差を見せてくれることでしょう。

テストした音楽は”ロッシーニの涙(Une Larme)-Harmonia Mundi”導入部です。

同じ条件でパワーアンプだけ変えて比較したスペクトルです。スペクトル上で多くの違いを見せています。基音から倍音までBアンプがAアンプよりはるかに少ない量のスペクトルを示しています。単にTHD値だけの違いだけであれば、このような大きな差にならないでしょう。このスペクトルでいくつかの種類の考えるべき部分があります。

左側がAアンプで、右側がBアンプです。Aアンプが倍音の情報が生きていることが歴然です。

  1. ピアノの鍵盤1つの音が出たときに発生するピアノの倍音が、Aの方がより明確で正確です。
    (音質的にもAが実際ピアノの音のような豊かな音です。Bは音色が明るくなり、やや痩せた、調整が足りないようなピアノ音が出てしまいます)
  2. 5kHz~8kHz、高音の倍音情報がBアンプはほとんど消えてしまってます。
  3. ピアノ音の余韻がBはすぐに消えてしまってます。

もう一つ確認してみます。 ピアニッシモ演奏部分です。この部分では更に多くの違いが分かります。

  1. 5kHz~8kHzの部分が、Bではほとんど見えません。
  2. 弱音で音の余韻はさらに違いがあります。Aではピアノの余韻が次の鍵盤を弾くまで続くが、Bではその前に途切れてしまってます。
  3. 無音部の解像力の差です。実際にこのアルバムを聞いてみると、この部分でも小さな音(アンビエンス)が残ってます。しかしBアンプではその音がほとんど消えてしまってます。マイクロダイナミクス違いです。

音質的にAアンプの音が格段に良いです。ピアノの豊かな倍音が表現されて、演奏者の服がかすめる動きの音まで分かるような微細な音を出し、倍音、残響、空気感(アンビエンス)まで再現してくれます。ダイナミクスが小さい弱音ですら小さな音たちが多く存在し、フォルティッシモの演奏で更に大きな音を出します。一方、Bアンプは一見、澄んだ音だが、倍音がほとんど無くなって残響や余韻が消え、貧弱なピアノの音がします。音色は明るくなり、ピアノの音と音の間が切れて演奏が軽くなり、音楽のニュアンスも落ちてしまいました。

このスペクトルの違いをTHDで説明できるわけではありません。アンプが良い音を出すためには基本設計、採用部品、部品精度、電源部、配線、振動、シールドなど、計り知れない要素が存在するためで、単にTHDの違いでこのスペクトルを説明できないということであって、それでTHDがアンプの性能を評価できるものさしとしては使えないのです。

他の2つのアンプでの比較

下図のスペクトルを比較してみましょう。Bアンプは前述のAアンプで、Cアンプは一般的なAVアンプです。

Cアンプのスペクトルは、もうほとんど魚の骨のように倍音が消えてしまいました。多くの音が消えてしまって無くなっているのがスペクトルで確認できます。これは過度なNFBで、楽器の倍音を全て消してしまったためです。THD値は一番低いが、貧弱で痩せぎすな鋭い音で、音量が大きくなると、もう音楽ではなく騒音レベルの音がします。THDは0.03%と一番低いが、最も深刻な歪みになっているのです。

第3回「T.H.D-仕様の背景と結論」に続く予定です。

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