オーディオ仕様の虚像5「Frequency Range(周波数帯域)20~20,000Hz」

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HiFi Clubのコラムを翻訳掲載

オーディオ仕様の虚像 5
「Frequency Range(周波数帯域)20~20,000Hz」

テレビ(ディスプレイ)では既に2次元の平面に人の目で区分できる全てのカラーを表示できてます。このように他の家電製品は技術が発達し、デジタルによって小さくなり、便利になり、精密になり、向上しているが、なぜ、オーディオだけ同じように向上できないのでしょうか。

最も分かりやすい例がスマートフォンです。スマートフォンの画面はデジタル技術の発達で、5インチの画面に4K UHDを実現しているが、内蔵スピーカーは1960年代のトランジスターラジオよりも音質で劣っています。物理的にスペースが無いためです。これが映像と音声、ビデオとオーディオの最も大きな違いです。

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Galaxyで初めてステレオスピーカーを搭載Galaxy S9

オーディオが難しい理由は、人の可聴周波数帯域があまり広いことではないかと思います。我々が分かっている、人の可聴周波数帯域20~20,000Hzはあまりにも知られた数字だが、オーディオはまだ人の可聴周波数帯域を満足させられる部品さえまともに存在しない状態です。例を挙げれば、20~20,000Hzを満足に鳴らすスピーカーユニットはおろか、スピーカーさえ人の可聴周波数帯域(Full Range)をカバーするスピーカーは、ハイエンドオーディオでも数える程です。

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ハイエンドスピーカーを代表するブランドである米国のwilson audioが新たにリリースしたWAMM Master Chronosonicスピーカーです。2メートル(2m15cm)を超えるサイズのスピーカー1つの重さだけでも300Kgを超え、20~33,000 Hz、±2dBという圧倒的なスペックを出しました。可聴周波数帯域を適切に鳴らすために、計5種類の大きさのユニット(5ウェイ7スピーカー)に分けて構成し、音像を一致させるために仮想同軸型(スピーカー上下に低域ユニットを2個ずつ配置)して、リスナーとの距離に合わせてツイーターとミッドレンジの位置を精密に調節できるようにしてあります。このスピーカーの価格は8,000万円です。 そしてこのモンスタースピーカーを鳴らすためには、それにふさわしいパワーアンプが必要です。

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ドイツのAvantgarde Trioというスピーカーです。周波数帯域は18~20,000 Hzであり、各帯域を受け持つ3つのユニットと低域を担当する1000ワットのデジタルパワーアンプが内蔵されたアクティブサブウーファーで構成されます。各ユニットが担当する帯域は3つのユニット(Horn)が100~20,000Hzを担当し、クロスオーバーは100/600/4,000Hzに分かれてます。アクティブサブウーファーは横縦高さが1,030×1,060x760mmで、6個を3段に積んだ場合の高さが2メートル28センチにもなる巨大な大きさで、18~500Hz帯域を担当します。価格はサブウーファーを含んで2,000万円を越えます。

スピーカーがこれだけのサイズになって、ようやく人の可聴周波数帯域をカバーできます。価格が高いことに驚くのではなく、人の可聴周波数を満足させるスピーカーにするためには、これだけの物理的なサイズがなければならず、莫大な振動に耐えなければならない非常に難しい技術です。このように楽器の振動で始まってスピーカーユニットの振動で終わるオーディオは、電子工学よりも基礎物理学に近いとも言えます。物理学的な制約で、オーディオは発展できず、経済性のために音質は徐々に退化しているのが現状です。

話しを戻して、周波数帯域(Frequency Range)というスペックを調べてみましょう。

周波数範囲

理論的に最も良いアンプは、人の可聴周波数帯域をフラットに増幅するアンプです。しかし、前述のスピーカーの例のように、可聴周波数全帯域をフラットに(Flat Response)再生するアンプはハイエンドオーディオでさえも難しいというのが現実です。

全帯域をフラットに出すためには、回路の設計、部品の選別、回路の安定性、安定した電源、外部ノイズや振動の対策、シールドなど、非常に複雑で精密な技術と物量投入によって、やっと可聴周波数帯域を十分にカバーできるようになります。たとえ測定器で計ってFlat Responseグラフが出たとしても、音質が良いかどうか耳で聞かなければ確認できません。良い音質を出すためには、あまりにも多くの要素があり、それゆえオーディオが難しい理由です。

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アンプの周波数帯域は、一般的な人の可聴周波数帯域の20~20,000 Hzと表記しています。ここに大きな落とし穴があります。20~20,000Hzが表示されるが、どう出るかの説明はありません。それでも詳細に表示してある場合は、20~20,000Hz、±3dBなどと表記されます。この場合は低域の20Hzから高域の20,000Hzが出る±3dB、つまり2倍の音量差がありうると事です。

20~20,000Hz、±3dB程度ならばハイエンドクラスではないとしても、十分なレベルの周波数帯域特性です。うしろのdBは誤差の範囲です。つまり上記のグラフのように低域と高域に差があり得るということです。グラフも理論的なグラフで、実際のテストのグラフでは更に大きく歪んでいる場合もあります。

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参照:http://www.alesis.com/kb/article/2227

上のグラフのように、20~20,000Hzと書いてあっても、実際の測定をみると、このようにピークとディプが発生し、非常に悪い周波数特性を示します。20~20,000Hzの帯域を、難しい問題だが20~20,000Hzをいかにフラットに(Flat Response)作り出せるか、容易ではない問題です。

更に詳しく、

10~500,000Hz±1db、20~20,000Hz-0.1dB

非常に優れたアンプです。10Hzから500,000Hzまで±1dBで非常に安定して増幅し、可聴周波数帯域は-0.1dBと、ほぼフラットに出ています。

20~20,000Hz、±3dB

十分な水準です。可聴周波数帯域で3dBの誤差があるが、悪くありません。ただし、このアンプがもし高価のハイエンドアンプであれば、よく調べてみなければなりません。

20~20,000Hz

誤差範囲がなく周波数帯域だけが書かれている場合、このアンプは信頼できません。とにかく20~20,000Hzが出るが、上のグラフのように実際の動作は非常に不安定な動作になる場合があります。

周波数帯域が書かれてない場合

周波数帯域さえ公開しないのは正常に動作するアンプではない場合があります。このようなアンプの音質はあえて聞かなくてもいいとも言えます。

オーディオのスペックは、オーディオの音質再生能力を見極められる客観的なスペックはほとんど無く、オーディオの出力、T.H.D、SN比、周波数帯域など、その数値で分かるのは非常に限定的です。それ以外のDamping Factor、Slew Rate、Sensitivityなど、他のスペックについては機会があれば解説します。これにて「オーディオスペックの虚像」を終えたいと思います。

ありがとうございます。