HiFi Clubのコラムを翻訳掲載
オーディオスペックの虚像
SNR(信号対雑音比)-LPとCD
SN比は、オーディオ機器の信号対雑音比(Signal to Noise)を言います。つまり、入力信号に混ざっているノイズ(雑音)の数値を現したものをデシベル(dB)で表現します。
SN比はdBで示し、数値が高ければ良好です。一般的にSN比とダイナミックレンジを同一とする場合があるが、厳密に言えば異なることです。SN比は信号に混ざっているノイズの事で、ダイナミックレンジは最も小さな音と大きな音の差を言いますが、一般的にSN比が高いとダイナミックレンジも広くなります。
SN比が問題になる代表例が、LPとCDのSN比です。LPのSN比は最大でも70dBを超えません。しかしCDは110dBを超える場合もあります。SN比、ダイナミックレンジ、チャンネルセパレーションのスペックではCDはLPを圧倒します。しかしLPの音が自然だとしてLPの音質を好む人も多いです。
その理由を調べるため、1つの実験をしてみました。測定方法はオーディオシステム(スピーカー)から出る音を直接測定しました。
システム
- スピーカー:Avantgarde Trio Classic with Basshorn XD
- アンプ:Dan D’agostino Momentum Monoblock Power、Momentum Pre
- ソース
- LP Player::Welltemperd Amadeus GTA-II with BOP(リチウムイオンバッテリー電源)
- CD Player:一般的なCD Player
- 測定方法
- スマートフォンアプリを利用した測定
- スマートフォン:サムスン ギャラクシーS9
- アプリ:SpectralPro Analyzer
- マイク:ギャラクシーS9内蔵マイク
音質比較測定
CDとLPの音質テスト
ドイツグラモフォンから発売された「アンネ・ゾフィー・ムター Zigeunerweisen 」導入部です。デジタル初期の「DDD」レコーディングなので、個人的にこのアルバムが良い録音とは思ってません。しかし、ソース機器自体の客観的な比較のために、デジタルレコーディングされたような音源でLPとCDを比較しました。
CDとLPのスペクトルデータ比較
このスペクトルを比較してみると、序盤の無音部からLPは特有のノイズがあり、そのノイズがLPのSN比が劣っている理由です。しかしスペクトルデータをよく比較してみると、8,000Hz以上の倍音部でLPとCDは著しい違いが見られます。もしこれがLPのノイズであれば、ノイズパターンは序盤の無音部にあったノイズの延長になるはずだが、楽器音に基づいて倍音部の周波数帯が変わることを確認できます。
しかし、デジタルレコーディングにもかかわらず、再生メディアであるLPとCDの情報量は多くの違いがスペクトルデータ上に表現されています。LPの方がはるかに多くの情報があることが分かります。
もう少し詳しく比較してみましょう。
重要な部分を拡大してみました。
- 無音部でCDとLPのノイズの違いが分かります。LPの構造的問題でカートリッジがレコード盤の溝をなぞって出るノイズが明確に現れます。これがLPのSN比が劣る理由です。
- オーケストラ演奏部分です。様々な楽器の演奏によってLPでは多くの倍音付加でいっぱいです。LPはこのように倍音部分だけにノイズを出すことはできません。これがLPの基本的なノイズとは関係のない、CDとLPの実際の音楽の再生能力の違いです。
- CDは特に8,000Hz以上から倍音がほとんど消えてしまい、薄いほぼ緑色(-50dB)のみしかありませんが、LPは各音に倍音が交差して変化し、赤色(-25dB)帯が現れ、複雑な倍音部をよく表現しています。高音部に伸びるバイオリンで倍音付加が消え、固い音が鋭く出るようになります。
- バイオリン独奏部で、CDでは4という数字が見えにくくなるほどに音がない一方で、LPでは弱音のディテールがよく生きています。
中ほどのバイオリン独奏部です。上部黄色ボックス内の高域倍音不足の問題だが、下段のバイオリン基音部周辺も意外に大きく異なっています。このグラフから見ると、CDはノイズを除去してSN比を高めているが、ノイズを除去しつつ、本来音楽にあった微細な信号(弱音と倍音)なども一緒に除去されてしまっていることが確認できます。
CDとLPの音質の違いは、人によっても異なる評価になります。CDの音質がクリアーで良いという人もいれば、ノイズがあっても音楽的なLPが良いという人もいます。CDとLPの音質に関しては「アナログとデジタル」のテーマで扱う予定です。
SN比はアンプやオーディオの能力を示すには限界があり、ただ機器自体のSN比だけを表すもので、それによって音楽の情報(原音)がどのように失われ歪むのかまでは分からないスペックです。