HIFICLUB試聴会:WPHONO1

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WaversaSystemsの技術を集約したWPHONO1試聴会が2017年4月に開催されました。
小型のフォノアンプだから大きな期待はできないと考えるかもしれませんが、実際の音は、これらの考えを完全に変えてしまうサウンドです。これは、WPHONO1にWaversaSystemsのほとんどの技術を投入した成果です。
ハイエンドラインナップのWDAC3、MCH PHONO、D2。それらWaversaの系譜を受け継ぐWPHONO1アンプはどのような技術とサウンドを聴かせてくれるのでしょうか。

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WaversaSystems WPHONO1 Amplifier

WaversaSystemsは、国際的に大きな成功を収めたWDAC3をはじめ、Wminiシリーズ、WSmartHub、V-Amp Series、MCH PHONOアンプ、ヘッドフォンアンプD2など、スピーカーを除くほぼ全てのジャンルをラインナップしています。彗星のようにオーディオ業界に登場し、短期間で多くの製品を発売した希有なメーカーです。

WaversaSystemsの代表、シン・ジュンホ博士が今後のラインナップについて初めて話した時は、1人で多様な多くの製品を設計して製作することが信じられませんでした。発売される多くの製品の設計がシン・ジュンホ博士の頭の中に既にまとまっているからこそ可能なのでしょう。 現在、この最初のロードマップは変更点もありますが、ほとんどがリリースされています。

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WaversaSystemsの技術は、WNAS3をはじめ、今回の試聴会のメインであるWPHONO1アンプを起点に熟成の域に到達していて、WPHONO1に技術のほとんどが投入されました。
DACシリーズの開発で得られた増幅部の設計、MCH PHONO開発で得られたRIAAカーブの正確なデータ値、ヘッドホンアンプD2に搭載したヘッドフォン出力段の設計技術が活かされ、WaversaSystemsの技術の総合と言えます。

WPHONO1の技術的特長

WPHONO1のサウンドはどのように作られているのでしょうか。
WPHONO1が持つ技術、機械的特徴について説明します。

オーディオコンポーネントの音質を判断するとき、一番最初に見る部分がまさに「機器のシャシー」です。 シャシーがどの程度強固で密度があるのか、重く作られたかによって振動を抑制し、ノイズを減らすオーディオ機器の特性上、重要です。

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WaversaSystems独自のアイデンティティを現しているWPHONO1のシャシーも、底部に厚い鉄製のベース、フロントと天板にアルミを使用しています。
電源部と回路部が完全に分離されるように、電源部を内部から隔壁処理されています。これにより最大限にノイズを抑える設計となっています。

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▲ 電源部を隔壁処理

オーディオ機器を制作する際に、コストを削減できる要素は多くありますが、その中で特に簡素化されやすいのが「電源部」です。 しかし、この電源部がどのように良い設計と良い部品を使用したかで、音質は千差万別の違いとなってしまいます。

WPHONO1は、これまでのWaversaSystems製品と同じく、この部分でもコスト削減しようとしません。
完全に優れた音のために、大容量トランスを使用し、小さなダイナミックから大きなダイナミックまで良く出るように製作しました。また、搭載されたヘッドフォンアンプも優れた性能を示しています。

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▲ バランス出力、そしてインピーダンス、静電容量を設定可能。

もう1つ、音質を想像できる部分が、フルバランス回路で作られたWPHONO1の設計です。
フルバランス設計のフォノアンプは、とても高額な製品で見られますが、接続はバランスでも内部は完全なフルバランスではない場合があります。
WPHONO1アンプは2チャンネルアンバランス信号を左右チャンネルごとに逆相の信号、合計4つの信号で完全フルバランス設計で製作されています。
これに加えてCMR(Common Mode Rejection:コモンモード除去-増幅した2つの信号を比較して共通の信号のみ活かしノイズを除去する技術)を経て、最小の信号損失とノイズ抑制能力を高めました。

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▲ フルバランス設計の増幅部。4チャンネル出力のMOSFET仕様。

フォノアンプ設計の中核とも言える増幅段はどのように設計でしょうか?
WPHONO1は増幅段にWaversaSystemsのハイエンドDAコンバーター、WDACの増幅設計を搭載しました。
左右2チャンネルずつ、合計4チャンネルで構成された余裕のあるMOSFET出力を使用し、優れたダイナミックな表現でき、カートリッジから読み取った信号をそのまま増幅して自然で無理のないフォノサウンドを生み出します。


WPHONO1は様々なカートリッジに対応するために、リアパネルにインピーダンスとキャパシタンスの調整ノブがあります。
今回は内部のイコライザー調整ディップスイッチを試聴室に合わせてセッティングしました。

WPHONO1は上位モデルであるMCH PHONOアンプの能力を受け継ぎました。それは、RIAAの精度(RIAA accuracy)です。
レコード会社ごとで異なっていたEQカーブを統一したRIAAカーブは、実際に完璧なEQカーブがありません。 最も脆弱な部分と言える100〜500Hzの部分はどのように再生曲線を作成するかについて明確な基準はありません。

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MCH PHONOアンプを開発して得られた最適なRIAA EQカーブデータ値をWPHONO1に活かしました。
このEQカーブ値はジャズ、クラシックなど様々なジャンルを10,000回程プレイして作り上げたデータで、WaversaSystemsの音質への情熱と執念を感じられる部分です。

第1部のシステム:WPHONO1/VPre, VPower/Focal Scala V2 Utopia

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開始前にWaversaSystemsのシン・ジュンホ代表がのWPHONO1アンプの製作動機と製品ポジションについて説明しました。
WPHONO1アンプは再燃しているLPブームに向けて、より多くの人々が「アナログ・サウンド」を楽しめるように作られた製品だと言います。しかしWaversaSystemsが追求する「ハイエンドサウンド」は、決してあきらめずに製作したと明らかに話しました。
フラッグシップにリリースされたMCH PHONOの技術力とサウンド特性をそのまま継承した、価格的メリットを大きく持つポジションです。

Dire Straits – Sultans of Swing
Sultans of Swing

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強烈なドラムのアタックとエレクトリックベースが重いポップな曲です。きらびやかなマーク・ノップラーのフィンガリングも一品な曲です。 これらの曲では、低コストのフォノアンプではややもすると軟らかいつまらないサウンドになってしまう場合があります。

しかし、WaversaSystems WPHONO1は価格を超える優れたダイナミクスと強力なインパクトで雰囲気を導いていきます。実際にこの価格帯では感じることができない低域の重み表現が逸品です。ハイエンドフォノアンプのような絶頂のリズム感で、曲が与える強烈なステージをそのまま再現します。
WaversaSystemsのシン・ジュンホ代表が話した、価格は下げ、ハイエンドのサウンドは諦めないという言葉に納得できます。

この曲では、内部のディップスイッチでEQカーブ調節もしてみました。やや地味だった音が、WPHONO1の内部EQカーブ調整によって鮮明になり、優れた解像力とエネルギー感、高域から低域まで十分な量感とバランスで、男性ボーカルとエレキギターのライン、焼け付くようなリズム感、強烈なサウンドステージとパワーでステージを圧倒します。

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▲ 内部ディップスイッチで、環境に合わせてチューニングできます。
Diana Krall – S’Wonderful
Live in Paris

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この曲は、WaversaSystemsの上位モデル、WDAC3とアナログVSデジタルの比較を行いました。
WPHONO1はこの曲でもやはり非常にバランスがよく取れた音を鳴らしてくれました。コントラバスの軽快な動きが良く、女性ボーカルは誇張も不足もなく適切に響き、ドラムのブラシとハイハットは非常にリズミカルに聞こえます。全体的にステージいっぱいに満たしたナチュラルなサウンドはLPサウンドの良さをそのまま引き出しました。

WDAC3で同じ曲を比べると、ノイズレベルが減り、更に鮮明になった印象を受けました。完成度の高いDACと低価格のフォノの比較は、一般的にはフォノが音像が揺れ音の境界が曖昧で、特に低域が弱い感じを受けます。WPHONO1は高価なDACとの比較でも、揺れないサウンドステージと鮮やかな音像で、強力な低域のエネルギーのWDAC3と競いました。

ここで興味深いのは、両方の機器の音が非常によく似て聞こえるという事です。アナログとデジタルと異なるのに、同じ音質を追求するWaversaSystemsのイデンティティが維持され、一聴では違いを感じないほどに近いサウンドを聞かせてくれました。全体的な自然さはWPHONO1が勝り、WDAC3がより整ったクリアーなサウンドを聞かせてくれました。実力差ではなく好みの違いという表現と言えそうです。それほどに価格が数倍と高額なDACと比較しても、WPHONO1は絶対的な実力で押されないことに拍手を受けたのも当然です。

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Oscar Peterson Trio – You look Good to me
We get Requests

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イントロでからコントラバスの深い低域を感じることができるオスカー・ピーターソン・トリオの曲を聴いてみました。以前にデジタル音源で聴いたことを思い出してみると、やはり多くの違いを示しています。アナログから出る豊富な倍音はコントラバスの音を一層より暖かく豊かにしてくれます。コントラバスが下がれば下がるほどに大きくなるエネルギーと、肉厚の量感で音楽を十分に発展させます。 また、トライアングルは空間をうまく埋め、ステージサイズは良く示します。

イントロが終わってドラムブラシのサウンドは以前に聞いた音より小さくなります。WPHONO1アンプがダイナミックな表現が小さい音は小さく、大きい音は大きく詳細に広い範囲で感じられる部分です。この後、音楽が発展し、各音が出そろってくるとその差は歴然です。小さな音の表現と大音量の表現の差が大きいほど、音楽を聴く感動は更に大きくなるしかありません。

Oscar Peterson Trio – You look Good to me
We get Requests

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序盤が終わて登場する低域の音は低域表現のテストに最適です。一小節一小節が長いこの曲で「Hello」と言うボーカルの表現直後に、十分な空間の広がりと量感を表現します。続いて「But I is not done much healing …」の意味を十分に表現する低域の動きは、最上級フォノアンプのトルクを示しています。この小さなフォノアンプからこれほどの低域の量感が出てくるかのか不思議な程です。

第2部のシステム:WPHONO1/VPre,VINT/Courbe F-800

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第2部からはCourbeの自信作F-800スピーカーでWPHONO1を試聴しました。Courbe F-800は8インチのフルレンジスピーカーで、エンクロージャは白樺積層材で、フロントパネルにはウォールナット(クルミの木)の原木で製作された美しいデザインのスピーカーです。使用された8インチフルレンジユニットは周波数帯域が40〜25,000 Hzまでの広帯域のフルレンジユニットで、よく聞くフルレンジユニットの中域が膨らんで高域が閉じ込められたような音ではなく、パノラマが高解像度に開放されたようなサウンドが出ます。

WPHONO1とのマッチングが良さそうに感じて、実際に接続した結果が非常に良いために試聴会でデビューしました。接続したアンプは、EL-34を使ったWaversaSystems VAMPで駆動しました。マッチングは非常に良く、まるでマルチウェイハイエンドスピーカーのように広帯域のサウンドステージが不思議です。フルレンジの利点と現代的なハイエンドサウンドが調和した非常に優れたスピーカーです。

Diana Krall – S’Wonderful
Live in Paris

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F-800で聴く音楽は、一言では言い表せないサウンドが出ます。全てのカーテンを取り除き、全ての隠れていた音が全ての自分の存在を表わして音の饗宴が繰り広げられます。もちろんフォーカル3ウェイスピーカーの精巧さと安定したサウンドステージ程ではありません。しかし、まるで加熱調理した魚料理と活魚料理のように異なる傾向のサウンドが広がります。

WPHONO1、VAMP、Courbe F-800の構成は、お互いの長所をうまく引き出す相乗効果の高い組み合わせです。F-800の25,000Hzまでよどみなく伸びる高域と、明るく透明な中低域をWPHONO1は優しく撫でてリードします。フルレンジの短所はほとんど現れておらず、フルレンジスピーカーの長所がよく活かされたF-800スピーカーの真価が大いに発揮されました。

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Gary Karr – Schubert Arpeggione Sonata for Contrabass
Arpeggione Sonata

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F-800の積層エンクロージャのおかげか、F-800はフルレンジユニット1つとは信じられない硬質な低域とディテールを再生され、ゲリー・カーのコントラバスが良く響きます。

オーディオは実際のサウンドを再現することが目標ですが、ステージサイズや実際の楽器の大きさの表現は容易ではありません。しかしWPHONO1とCourbeスピーカーは、このような表現においてフルレンジの限界を克服し、非常にリアルなサウンドを再現しています。床に敷くような超低域が極めてリアルで赤裸々に表現され、優れた解像力と深く落ちる低域の質感とエネルギーをよく表現され、感性的なカーの演奏をよく表現しています。

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Michael Rabin – Paganini Violin Concerto No.1
The Philharmonia Orchestra

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フルレンジユニットが出すサウンドの不思議さにつられ、極限のテスト曲も鳴らしてみます。マイケル・レビンのパガニーニヴァイオリン協奏曲を聞いてみました。この組み合わせでフルオーケストラサウンドはWPHONO1の優れたダイナミックな表現と解像力で表現され、40〜25000Hzと広帯域なCourbe F-800スピーカーが存分に受け止め、20人余りが集まった試聴室をオーケストラサウンドでいっぱいにしてくれました。これはフルレンジユニットの想像を超えたサウンドに、参加してくださったすべての方々の賛辞を受ける曲になりました。

続いて登場するバイオリンの音は非常に気品があります。一音一音がまっすぐにエネルギーが満ちていて質感十分です。マイケル・レビンの鋭く鮮烈なバイオリンの旋律の展開がよく表現されます。悪魔的技巧なパガニーニ曲の最後のカデンツァで音が「饗宴する」と感じます。各音のアーティキュレーション表現を感じられます。

優れたダンピングで、まるでハイエンドデジタルサウンドを聞くような揺れないサウンドステージを実現する、WPHONO1の明らかに価格帯を超えたハイエンドオーディオの能力です。この後、楽章を終えるフルサウンドで吹きつけるスピードとアタック感で、再び質感とスピードを同時に示す能力を感じることができました。

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▲ WPHONO1のヘッドフォン出力を鑑賞する参加者

ボーナス特典のようなWPHONO1のヘッドフォンアンプは、鳴らしにくいAbyss 1266を鳴らしてくれるWaversaSystemsのD2アンプの技術を搭載しました。フルディスクリート設計で一般的な増幅素子に比べて膨大な数値と言える「8W」もの強力な出力です。これは眠っていたヘッドフォンの性能を最大限に引き出す、試聴会の休憩時間に試聴したヘッドフォンマニアに大きくアピールしたパワフルなドライビングサウンドでした。

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今回の試聴会でのWaversaSystems WPHONO1アンプのサウンドと技術、デザインについてお伝えしました。旺盛な技術力、開発力、製品クォリティ、そして音にもう一度拍手を送りたい時間でした。WPHONO1を見聞きして、某自動車ブランドの広告コピーであった「Super Normal」というフレーズが思い浮かびます。LPサウンドを最高の音で楽しむことができる機器だと思えます。試聴会に参加してくださった方々に感謝の言葉を申し上げます。