アナログとデジタルの最高の技術力が生み出した成果 Waversa Systems WPhono-Lite デジタルフォノアンプ

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HiFiClubのレビューを翻訳掲載

ウェーバーサシステムズ、「革新」と「最高の技術力」という言葉が似合う会社である。
そんなウェーバーサの革新的な新製品、WPhono-Liteフォノアンプが発売される。

WPhono-Liteの最大の特徴は、フォノアンプのにデジタル出力があるのだ。
つまり、「フォノイコ-AD-デジタル処理-DA」の処理を経るフォノアンプだ。
オーディオのアナログLPとデジタルは、永遠のライバル(?)の関係と言える。そのライバル関係のLPがデジタルに会ったのだ。

WaversaSystems-WPhono-Lite_1

LPなのに「なぜデジタルなのか?」という疑問があるが、一言で、ウェーバーサ WPhono-Liteは、アナログの短所を改善するためのデジタル技術が投入されたものである。
LPのスクラッチやホコリなどにより発生するPop-UpノイズはLPの宿命であり、致命的な欠点とも言うことができる。
WPhono-Liteは、そのPop-Upノイズをデジタル段で、原音を損なうことなく除去するノイズリダクション技術が入っている。
アナログでFM Acoustics社で同様の製品があるが、価格は数百万円にもなる。

デジタルの最大の利点は、情報の損失なく補正と正確な設定値を出すことができるという点である。
アナログとは異なり、複雑な回路を追加せずに数字だけ変えられるからである。
RIAAカーブ補正回路、デジタル段で最終処理を行い、損失の無い補正と正確な処理を可能にする。

フォノカートリッジは大きくMMとMCに分けられ、更にカートリッジごとに出力電圧と出力インピーダンスがまちまちである。
WPhono-Liteは、メニュー画面からカートリッジのブランドとモデル名のみを選択して、自動的にゲインとインピーダンスを設定してくれる機能をサポートする予定だ。便利で革新的であり、このプロセスもデジタルなので音の損失はない。

WaversaSystems-WPhono-Lite_構成図

WPhono-Liteはデジタル出力とアナログ出力の両方をサポートする。
一般的なDACユーザーのためのS/PDIF同軸デジタル出力をサポートし、デジタルフォーマットは24Bit/176.4kHzで出力される。
ウェーバーサDACユーザーの場合は、ウェーバーサ独自の音楽転送プロトコルであるWNDRをサポートするため、Ethernetを介して、なんと32Bit/176.4kHzでLPを聞くことができる。
そして一般的なプリアンプユーザーのために、アナログRCA出力にも対応する。

アナログフォノイコの内部設計特徴は、OPAMP4つを使用した完全フルバランス設計で、カートリッジからの信号を増幅したアナログ信号は、2つのADコンバーターチップでデジタル部へ送るデュアルADC方式で音質の損失を最小限に抑えている。
電源部はウェーバーサが独自開発したノイズレスDC電源装置であるWLPSの技術を投入し、両電源を使用するフォノアンプのためにプラスマイナスの電源を供給する仕様に再設計された。

デジタルも最高の技術力を保有するウェーバーサらしく、独自技術のデジタルソース信号追跡技術”Waversa Audio Processing”、WAPが適用され、ノイズのない信号伝送プロトコルである”Waversa Network Direct Rendering”、WNDRにも対応する。

WaversaSystems-WPhono-Lite_front

外観を見ると、前面には電源ボタン、ディスプレイ、メニュー、セレクトボタンがあり、背面にはフォノ入力端子とRCAアナログ出力端子、同軸デジタル出力端子があり、EthernetとUSB3.0ポートもある。フロントボタンでWPhono-Liteの基本的な設定を行える。IPアドレスも確認でき、メニューやセレクトボタンを利用して、カートリッジタイプ、ゲイン設定などの基本的な設定の全てを行うことができる。

WaversaSystems-WPhono-Lite_rear

ウェーバーサ専用リモコンアプリ(iOS用/android用無料公開中)で、WPhono-Liteの様々な設定を簡単にできる。
カートリッジタイプ、ノイズリダクション、フォノサウンドデプス、MM/MC、ゲイン、WAP/Xの適用の有無とダイナミックレンジのレベル選択ができ、今後のカートリッジの選択などが追加予定だという。

パフォーマンステスト

続いて、WPhono-Liteの音質性能はどの程度なのかを調べてみよう。
WPhono-Liteはまだ開発中のためノイズリダクション機能などがまだ搭載されておらず、今回はWPhono-Liteの同軸デジタル出力部分をテストした。

WaversaSystems-WPhono-Lite_WSlim-LITE-WSlim-DS_WLPS

DACとアンプはWSlim-LITEを使い、スピーカーはB&W 802D3を使った。
ターンテーブルはマッキントッシュMT-2、カートリッジはダイナベクター DV-20X2 L(低出力バージョン)で、フォノケーブルはヘミングウェイ、コアキシャルケーブルはオーディオクエストカーボンケーブルを利用して、WSlim-LITEにデジタル接続した。オプションでWLPS電源部を投入し、ウェーバーサWVShield 5525 DCケーブルを使って最高の環境を構成した。

WPhono-Lite背面配線接続
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Queen - Another One Bytes the Dust

The Game

強烈なエレキベースとドラムの低域のエネルギーが凄まじい。LPを知る人ならは分かるが、LPで強烈で固い低域を作り出すことは容易ではない。美しく正確なトランジェントの瞬間的なインパクトを生み出す。この曲の低域のエネルギーとクオリティだけでWPhono-Liteを認められなければならない。当然この点から、B&W 802D3を堂々と鳴らすWSlim-LITEも称賛に値する。

豪快なフレディマーキュリーのボーカルは強力なバンドの伴奏を乗り越えて出てくる。洗練されたドラムのインパクトやどっしりとしたエレキベースの寸分の乱れのないパフォーマンスは、従来のアナログシステムでは難しい感覚である。明らかにWPhono-Liteは従来のアナログフォノアンプとは異なる性能を持っている。

WPhono-Liteは瞬間的反応のトランジェントが明らかに速く正確に反応してくれる。一般的なアナログシステムで感じる困難な精巧さ、緻密さ、繊細さ、正確さが加わる。ターンテーブルとMCカートリッジの価格を考慮すると、明らかに価格を大きく超える水準だ。アナログの欠点を補完するデジタルがこの曲で威力を示している。音楽に基づいて急変する能力はオーディオの実力だ。雷鳴の効果音でも超低域の力感に躊躇いもない。

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Colin Davis、BBC Symphony Ochestra Sequentia:Dies Irae、Tuba Mirum

Mozart Requiem

コリン・デイヴィスが指揮したモーツァルトのレクイエム、第3曲「Dies Irae」と「Tuba mirum」を聞いてみる。この曲では、事実、少し衝撃を受けた。24Bit/176.4kHzデジタル高音質フォーマットの真の音を初めて経験したかのように極限のディテールが表現された。

合唱団員の数が圧倒的である。合唱団員の細かい表現は、このレコーディングを通してある程度感じることができるだろう。合唱団員の声が全く固まらず、個々の声が多く聞こえる感じだ。合唱団員の数が増えてきた感じではなく、合唱団員の数をすべて数えられるような感覚だ。

事実、これだけの分解力は、高価なハイエンドアナログシステムで聞くことができるレベルである。もちろんフォノケーブルはヘミングウェイフォノケーブルを使っているが、100万円台以下のアナログシステムで、このような分解力が出てくるというのが素晴らしい。優れた立体感、強固に展開する広々としたサウンドステージ、揺るぎなく整ったステージまで、より高いレベルのLPシステムだったらどうだったろうかと想像する程にWPhono-Liteの能力は期待を超えた。

このアルバムが良いレコーディングのアルバムであるとは知っていたが、これほど良いレコーディングのアルバムだったかと再びジャケットを見直した。「一体この小さなフォノアンプは何なのか?」という疑問が浮かぶほど、この曲でWPhono-Liteの能力は凄かった。

「信じられないほど金管音が鳴る(Tuba Mirum)」曲のタイトルのように管楽器の荘重な響きで音楽は始まる。声楽家の歌声の密度で満ち、透明で、澄んで繊細に表現される。ベース、テノール、コントラルト、ソプラノ各パートの音程の違いは、声楽家たちの固有の音色表現が明確に対比される。

そして、この曲で非常に興味深い現象を発見する。アナログとデジタルの解像度の表現方法である。アナログは、内部の密度と細密さに優れた反面、デジタルは、表面のテクスチャの解像力を中心に表現するという現象である。だから一見聞くとデジタルがより洗練され感じだが、実際に中がちょっと空いている感じを消すことができない。

WPhono-Liteを聞きながらそんな感じを受けたのは、WPhono-Liteがアナログの内部を微粒子で満ちた解像力と、デジタルの表面の細かいテクスチャ表現を行うからだろう。揺るぎない音像は一見聞くと、まるでハイエンドDACを聴く感じさえもする。もしブラインドテストをしたら、ハイエンドDACとするほどの精巧さと安定感がある。

しかし、音の中に詳細な内部描写の表現はまだアナログのみがこなせる領域である。だからWPhono-Liteはアナログの自然さと実体感のある音にデジタルの強固な構造物を作ってくれる。従来のアナログで感じるのが難しかった表面のテクスチャの洗練を加え、アナログとデジタルの長所を合わせた音を経験することができる。

これらのことは、非常にユニークで新鮮な経験である。ベース、テノール、コントラルト、ソプラノ各パートの音程の違いは、声楽家たちの固有の音色表現が華やかできらびやかである。これらのドラマチックな音色表現力がより音楽に集中するように展開する。
そしてオーケストラの演奏も非常に繊細に小さなピアニシモでも楽器の質感を失わない。倍音とアンビエンス、マイクロダイナミクスの饗宴が繰り広げられる。

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Oscar Peterson Trio - You look too good to me

We Get Request

リイシューアルバムで45rpm版である。ピアノの音像は小さく、コンパクトだがヤワではない。オスカー・ピーターソンならではの繊細かつ簡潔にタッチの音に絶妙な拍子とリズムが展開される。

低く長く続くレイ・ブラウンのコントラバスが超低域でも非常に安定し堅実なエネルギーを広がる。狭苦しくなく、躊躇せずに超低域でのエネルギーを噴き出しながらあまりにもスムーズに続く。レイ・ブラウンの手つきが忙しくなる。まるでレイ・ブラウンの指が弦に触れた瞬間さえ感じられるように細かいディテールが引き立って感じる。

澄んだ響き、簡潔な演奏、絶妙なリズム感の表現力を非常に機敏に瞬時に反応し、非の打ちどころも乱れも見せない。やはりこの音楽でも感じられるのは、「安心感」である。LPで感じやすい不安定な揺れがはっきり減少した感じだ。一般LPシステムでは、得にくい安定した展開をWPhono-Liteは生み出してくれる。

中盤を過ぎ、高速ビートに変わっても混濁したり騒がしくならず、音楽が意図したとおり興を加わる。この音楽でもWPhono-Liteは今まで聞いてきたアナログと明らかに違う姿を描き出す。アナログとデジタルの雰囲気の好ましい構成である。アナログの自然さとデジタルの安定感で、この曲はさらに輝く。

そして浮かぶ考えは、今後デジタルが良くなると、いよいよ音楽的にもLPより良くなれるという希望である。
これ程ならば、アナログ一筋のマニアにも認められるほどのデジタルフォノアンプだ。

総評

WPhono-Liteを聞きながら感じたのは「やっぱりウェーバーサ!」という事である。一言でWPhono-Liteはサイズ、価格を離れて非常に優れた音質的完成度を見せてくれたフォノアンプだ。そしてサイズ、価格まで考慮すれば、本当に驚くべき音質を提供してくれるフォノアンプだと言える。

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何よりも印象的なのは、慎み深さと安定感ある。高価なフォノアンプで感じることができる静粛さがWPhono-Liteにはあり、この静粛はフルバランスで設計されたアナログフォノイコならではの長所だ。そしてもう一つ、通常のアナログでよく感じる難しい非常に洗練された、信頼性の高い感じの音というものである。

アナログLPからデジタルという不慣れなソリューションだが、アナログの構造的欠点をデジタル段で補正して非常に優れた結果を得たというものである。だからアナログの不正確さとデジタルの悪い情報量を満たしてくれるもう一つの新しい標準といっていいほどの音が出てきた。

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実際にウェーバーサはデジタル処理を設計する能力も持っているが、アナログ回路でも最高度の技術力を持っている。これまでウェーバーサでは300Bアンプはもちろん、フォノアンプもWPhono1、WPhono3T、MCH Phonoなど入門機からリファレンス級まで製作し、多くの好評を受けており、海外でもその名を広く知らしめている。

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アナログとデジタルのソリューションを全て持つ企業は極めて稀である。デジタルも外部モジュールを持ってきて使うのではなく、デジタル信号処理やFPGAなどを設計して搭載し、それに加えてWNDRという音楽の転送プロトコルまで自社開発している会社は、全世界的にも独特だろう。WPhono-Liteはそのようなアナログとデジタルを合わせる技術力をもとに、別の新しい音の世界を経験させてくれた。

まだテストできなかったが、Ethernetを介して32Bit/176.4kHzデジタル出力と、Pop-upノイズ除去を行うノイズリダクション機能なども非常に期待される。そして、それまで考慮すると、WPhono-Liteは本当に最強の能力を備えたフォノアンプだ。

WaversaSystems-WPhono-Lite_top

WPhono-Liteは名前のLiteという言葉はふさわしくないように、電源部からアナログ段の設計、デジタルソリューションまで、そのどれもLITEとは思えない。事実、この程の技術力と機能と音質的性能であれば外観を大きくして高価なハイエンドだとしても全く不思議ではない。いや、むしろそのように作るのが容易なこともある。WPhono-Liteがこのような小さなサイズに、非常にリーズナブルな価格で出てくることができるということこそウェーバーサの技術力で可能なのだろう。

WaversaSystems-WPhono-Lite_component.fw

LPが復活し大きな人気を得ている。WPhono-Liteさえあれば、ライフスタイルのスピーカーでも存分にLPを楽しむことができる利便性も忘れてはならないだろう。WPhono-LiteはLP入門者はもちろん、本格的なアナログマニアにも積極的に推薦する。

Specifications

TypePhono Amp
InputPhono MM, MC
Output

Digital : Coaxial x 1, Ethernet x 1

Analog : RCA x 1

DC Input12V
DimensionW150 x  L50 x H30 mm
Weight200g
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